最近買った本の中に真っ白な栞が挟まっていた。表にも裏にも何の印刷もない真っ白な栞。活字と活字を区切ることに特化した、完全に正しい栞。無機質ではあるがその佇まいには気品すら感じられる。しばらく呆然と眺めているうちに、自分はこの栞を手に入れるために今までずっと本を買っていたのかもしれないという気持ちになってくる。一体全体、これを手に入れるためにどれだけの時間を費やしたことか!

 

知人に連れられて爬虫類専門店に行く。最初は店内に漂う不穏な獣臭と餌として売られる虫々の夥しさに面食らったけれど、どの爬虫類にも不思議な愛嬌が有って思いの外拒否感は無かった。海外のお菓子にしか見えないヴィヴィッドなカラーバリエーションのヤドクガエルや、身を寄せ合って一点を見つめたまま微動だにしないフトアゴヒゲトカゲ、どう見たって恐竜の長い名前のへんてこなイグアナたち、そこでは今までじっくりと見たことのなかった多種多様な生物たちが我々に新しい生き方を提案していた。そしてそれはなかなか悪くないことのように思えた。

しかし何よりも印象的だったのは、客と店員の盛り上がり様だった。異国の地で初めて同郷の旅人と出会ったかのように、淀むことなく会話が流れて、屈託なく笑う。何の衒いも気負いも無く、純粋に無垢に。トカゲのことで、ヘビのことで。これは普段よく行く書店やCD屋では決して見れない類のものだった。それはまるで、ぎざぎざの木漏れ日のようだった。蜂蜜の声のようだった。それは浴槽のふちに水滴で描いた絵のようで、あっさりと形を失うものなのかもしれないけれど、その時動いた指先の温度を、今も思い出せると言ってしまっていい。跨いだ蝉を誰かが踏んだ。聳えるビルの隙間から何もない夜の空だけが見えた。自宅の最寄り駅を乗り過ごして一駅離れた食堂に行く。満員だったので歩いて帰った。

 

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