他人の帰り道

数少ない友人の引っ越しを手伝う。と言っても荷物の搬出や搬入は業者に頼んでいるので、手伝うのは搬入後の荷解きや家具の配置くらいだ。

あっさりと。滞りなく搬出が終わって、部屋の鍵を閉め駅まで歩く道すがら「この道を歩けるのはこれで最後だ」とか「あの部屋にはこれから君を知らない人が住んで、当たり前に暮らしていくんだ」「あの場所で今まであったことなんか無かったことになるように」とか、わざと感傷的なことを言ってみたけれど、友人は楽しそうだった。

電車に乗って小一時間ほどの引っ越し先。都心へのアクセスがいいのに下町っぽさも残っていて風情がある。いい街だと思うしそう言う。自分が住むわけでもないのに書店と図書館を探す。

廊下の暗い、趣のあるマンション。荷物を積んだトラックは渋滞で予定より遅れているらしい。

普段は一緒に晩御飯を食べに行ったって滅多に飲んだりはしないけど、少し埃っぽいまだ何もない部屋のカーテンのない窓から、ぼんやり初めての街を見下ろしていたらなんだか無性に楽しくなってしまって、昼間っからビールを買ってきて飲んだ。久しぶりに楽しかった。

荷解きは全然進まなかった。

 

  

 

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 日常がこれくらい楽しかったら音楽も文学もいらないと思うけど、どうせうわ言でたわ言だ。